開業費に係る消費税、控除できる?~10月に税理士として開業した私の場合を例に~

目次
開業準備で発生した「消費税」は控除できるのか?
令和7年7月10日に国税の職場を退職し、同年10月1日に「一瀬直税理士事務所」を開業しました。
このときふと気になったのが、開業準備中(退職〜開業まで)に購入した備品やPCの消費税は控除できるのか?という点です。
この論点、インボイス登録の時期と開業費の関係を理解していないと誤りやすい部分です。
国税庁の公式マンガ「新たに事業を始めた方へ」にもあるように、
新規開業者には特例的にインボイス登録を「年初にさかのぼって」行える制度があります。
新規開業者のインボイス登録には「特例」がある
脱サラ等により個人事業主として新たに事業を開始した場合、インボイス登録申請をして、所轄の税務署長から伝えられた登録日ではなく、
「事業を開始した日の属する課税期間の初日からインボイス登録を受けられる」特例が設けられています。
この、事業を開始した日の属する課税期間の初日というのは、その事業を開始した日がいつであるかにかかわらず、
その年の1月1日となります(消費税法基本通達3-1-1)。
なお、課税期間というのは、個人事業主の場合、暦年(1月1日~12月31日)になります。
つまり、私のケース(令和7年10月開業)では、
令和7年中に登録申請を提出すれば、令和7年1月1日からインボイス登録を受けられることになります(実際にそうなりました。)。
インボイス登録申請書の記入方法
国税庁の「ケース別登録申請書(フローチャート)」において、次のような分岐があります。
「事業を開始した課税期間の初日から登録を受けますか?」
→ Yes → ケース1(特例適用)
ケース1をクリックして飛ぶとインボイス登録申請書の記載例に飛びます。
インボイス登録申請書の「新規開業等した事業者」とその中の枠内にある「事業を開始した課税期間の初日から登録を受けようとする事業者」
に✅チェックを入れる必要があります。
これを選択することで、事業を開始した日の属する課税期間の初日である1月1日に遡って登録を受けることができるわけです。
登録日と仕入税額控除の関係(開業費の消費税)
開業準備中に購入したPCや事務用品の消費税は、控除できるのでしょうか?
ここで根拠となるのが、消費税法基本通達11-3-4です。
【消費税法基本通達11-3-4】
(繰延資産に係る課税仕入れ等の仕入税額控除)
11-3-4 創立費、開業費又は開発費等の繰延資産に係る課税仕入れ等については、その課税仕入れ等を行った日の属する課税期間において法第30条《仕入れに係る消費税額の控除》の規定が適用されるのであるから留意する。
つまり、開業準備中の支出(開業費)であっても、
その取引(例:PCの購入)を行った日(例:令和7年9月X日)の属する課税期間(例:令和7年中)において(令和7年の消費税申告における売上げに係る消費税から)控除が可能です。
ただし、この「控除できる」ためには、その時点でインボイス登録事業者である必要があります。
したがって、
✅ 登録日を開業日より前(年初)に遡らせる特例
→ 開業準備中の支出も控除可能
❌ 通常登録(登録日=申請後15日以降)
→ 登録前の支出は控除不可
となります。
実際の私のケースで仕訳をするとこうなります
- 退職:令和7年7月10日
- 開業:令和7年10月1日
- 登録申請:令和7年10月上旬(特例利用)
- 登録日:令和7年1月1日(特例)
開業準備中(9月中)にPCを購入した場合:
(借方)開業費 100,000 / (貸方)普通預金 100,000
(借方)仮払消費税 10,000 / (貸方)普通預金 10,000
→ 仮払消費税10,000円が控除可能です。
通常登録(例:10月15日登録)の場合:
(借方)開業費 110,000 / (貸方)普通預金 110,000
仮払消費税 0 /
→ 令和7年10月14日以前は、インボイス登録事業者以外の者になるため、控除ができません。
特例を使うと「1年分まるごと申告対象」になる点に注意
特例を使うと、登録日は1月1日に遡ります。
そのため、令和7年分(1月〜12月)すべてが課税対象となる取引となります。
とはいえ、退職までは給与所得者として働いていたため、
実際に課税取引があるのは開業以降(10月〜12月)です。
結果として、申告対象はほぼ開業後の取引に限定されることになります。
実務上のおすすめと制度別の注意点
インボイス登録を前提に考える場合、
開業準備で高額な設備投資(PC、家具、HP制作など)があるなら、
特例登録(1月1日遡り)を選択した方が有利です。
一方で、開業前の支出が少額で、今後の売上規模も小さい場合は、
事務負担を避けて「通常登録」または「インボイス非登録」を選択するのも一つの判断です。
仕入税額控除の前提に関する補足
上記の説明は、本則課税(原則課税)方式を前提としています。
簡易課税制度や2割特例制度を選択している場合は、実際の仕入税額をもとに控除を計算しないため、
開業費に含まれる消費税を個別に控除することはできません。
- 簡易課税制度 … 売上高にみなし仕入率を掛けて仕入税額を計算
- 2割特例 … 売上に係る消費税額の2割を納付して完結(仕入税額の控除なし)
したがって、「開業前に購入した資産の消費税を還付・控除したい」場合は、
原則課税を選択する必要があります。
まとめ:開業初年度の消費税は“登録日”が重要
| 登録方法 | 登録日 | 開業前支出の消費税控除 | 注意点 |
|---|---|---|---|
| 特例登録 | 年初(1月1日)に遡る | 可能 | 1月~12月すべての取引が課税取引 |
| 通常登録 | 登録希望日(申請後15日以降) | 不可 | 登録日以降の取引が課税取引 |
開業準備の支出が多い方ほど、登録日と課税方式の選択が重要です。
「特例登録にチェックを入れるだけ」で還付の可能性が生まれることもあります。
法令を正しく理解したうえで、制度を味方につける判断を行っていきましょう。

